プリンスインヘルは監督ミヒャエル・シュトックが仲間内で作った自伝的インディペンデントムーヴィー。公開は1993年。
舞台はベルリンの壁崩壊後のクロイツベルグ。当時、この地域は不法占拠者、パンクス、ジャンキー、同性愛者のたまり場だ。現在でも左翼政党、”緑の党”の本部があり色々な国から来たリベラルな感覚を持った若者が自分たちの 今しか使えない時間を余す事なく謳歌するために集い遊ぶエリアで住民の平均年齢はベルリンで最も低い。この作品は壁崩壊後のこれから何かがはじまりそう!という熱気とこれからどうなっていくんだろう、という不安を抱えた当時の政治情勢と若者によく見られる矛盾を内包したロミオとジュリエットのような悲しいラブストーリーである。
物語は道化師が地下で行っている不気味な人形劇と主人公たちのストーリーとリンクしながら進んでいく、主人公はゲイのカップル、シュテファンとヨッケル。シュテファンは強い左翼思考の持ち主で、ヘロイン撲滅キャンペーンを掲げている。ある日、2人で散歩中にヨッケルが警官と路地裏でセックスをし、シュテファンは「警察の犬か!」と怒り二人の関係は悪くなってしまう。その反動からヨッケルはシュテファンが最も嫌いなドラッグ、ヘロインに手を出してしまい・・・物語は地獄行きとなる。
この作品の最も注目したい所は、時代の変わり目で混沌としていた当時のリアルなベルリンのゲイカルチャー、ナイトライフ、ドラッグ、ネオナチのあり方を観れる唯一の作品だという事。さらに、音楽はEinstürzende NeubautenのAlexander Hackeも参加。93年にfilmarbeitenという映画音楽をまとめたアルバムを限定リリースしている。私がもし、この作品に出会っていなかったらベルリンには行かなかっただろうし、そこで生活した後でも断言できるベルリンのアンダーグラウンドカルチャーに触れられる素晴らしい映画だ。
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